平成15年度名報会総会講演資料

update : 2003/09/17

本文は、2003年6月21日に開かれた平成15年度名報会総会で筆者が行った同タイトルの講演に基づいて、大幅に加筆、改訂の上作成した。添付の図については講演のために用意したものをそのままつける。そのため、本文とは正確に対応していない部分もあるし、対応する図の無い節もある。
注:名報会=名古屋大学情報工学科および情報工学専攻同窓会 (2003.9.5 記)。

(本資料の著作権は著者鳥脇純一郎(中京大学)に属する。無断転用を禁ずる)


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講演概要

研究テーマを研究する -その個性と魅力-

鳥脇純一郎 (中京大学情報科学部)

1. まえがき

 研究テーマの選択は難しい。おそらく研究者にとって最も難しく、しかも、最も重要なものである。筆者は大学院博士課程以来およそ40年弱を大学において研究に従事してきた。その間、主に画像処理とパターン認識、とりわけ医用画像処理の研究を行ってきたと、通常の分野の紹介などでは自ら述べてきた。そして、外から見た場合、医用画像処理が最もよく知られているようである。しかしながら、筆者としては、他にも沢山のテーマを扱ってきている。とりわけ、大学院生が増えた1970年代後半からはテーマも多様化が著しい。
 これらのテーマを後になって振り返ると、テーマ自身に様々の特性があることがわかる。もちろん、どれも筆者が懸命に考えて選んだものであるが、各時点でのマン・パワーや計算機などの環境の制約も免れない。また、一面では筆者の好みが現れてもいる。しかし、そこには、始めた頃とは別の、いわば、各テーマの個性とか魅力とも言えそうなものが見いだされる。もちろん、研究中は目前の課題の解決に集中するし、その中にも多くの面白さも発見され、経験もされる。しかし、後で振り返ると、当然ながら、別の面も見えてくる。それは、研究が本来新しいことを試みる(従って結果は事前にはわからない)と言う性格の作業であるからには、いわば当然である。それらの両方を含めてまとめてみたのが本文である。言い換えれば、それぞれの研究テーマの魅力がどこにあったたか、であり、やってみた結果はどんな性格の問題であったか、と言うことでもある。
 さらに、どのテーマも、関係した大学院生や教官諸君との共同作業で挑戦したものである。しかし大学院生の多くが2,3年の在学期間中に関係したに過ぎないのではないかと思う。そういう人から見ると、自分がどんな流れの中でどんな特徴を持つテーマに関係していたかは恐らく知る機会もなく終わってしまった、と言うのが実際の経験であろう。本文がもしそういう人たちの目に触れることが有れば、自分(および周辺にいた人たち)が在籍中に関与していた研究テーマがどんな性格を持ち、どんな研究活動の流れの中にいたかを改めて知って頂く一助になるかも知れないと期待もしている。あるいは、筆者がその時々に何を期待して研究の方向を選択し、その結果としてあとで考えると何が良かったか、何がまずかったかを記しておくことはこれからの研究のために役立つかもしれないと思う。

2. テーマ1 胸部X線像のCAD -研究グループのバックボーン、グループのシンボル-

(1)“画像のパターン認識のすべての問題がここにある”
 まえがきにも述べたように、そもそも筆者の最初の研究テーマがこれである。特に、胸部X線写真のパターン認識は1965年頃から始めており、最初は「自動診断(automated diagnosis)を目標とする」と称していた。最近は計算機支援診断(computer-aided diagnosis CAD)と言う言葉が定着し、それと同時にCADが研究テ−マとしても開発目標としてもごく普通のものとなって特に珍しくはない(ただし、解決が易しくなったわけではない)。しかし、当時はこのテーマ自体が非常にユニークであったから、それだけで他とは区別してみられていた。そのかわり、「できそうもないことをやる」という批判もいつもあった。以来、もともと濃淡画像のパターン認識をテーマとしたが応用面では胸部X線像以外は考える必要がない、と言う方針であった。それは、パターン認識のすべての問題はそこにも含まれていると確信していたためである。この点は今でも変わりないと考えている。もっともイメージング技術の進歩で対象の質はかなり変わった。かくして、基本的方針として“他の対象への拡張は不要である”としていた。その結果として、本テーマは他所と比べての本研究グループの特色であり、また、グループのシンボル的な存在となっていた。また、世界的にも最も早くから着手したグループの一つであるから、世界的にもCADのパイオニアの一人として評価されているのではないかと思う。その反面、研究と技術の発展の上からは時代に先んじて非常に難しい問題に取り組んだことになって、余計な苦労をしたことになったかも知れない。
(2)ネーミングは大切である
 筆者が最初に作った胸部X線写真のパターン認識システムをAISCR−V1(Automated Interpretation System of Chest Roentgenograms - Version 1)と名付けた。今となってはいささか大げさな名前であるが、その後、同V2,V3と発展して漸く1978年頃名前に恥ずかしくない形ができた。この名前は医学関係者の中でも覚えて頂いたりして、大変良かったように思う。以後、要所で研究成果をソフトウェアシステム化してニックネームをつけたが、いい名前を付けることは論文のタイトルを考えることにも相当する効果があった。ここは沢山の人が関係したテーマであるが、中心となったのは、V2は末永康仁君、V3は長谷川純一君である。
(3)目標は“認識”にある
 本テーマの中では一貫して「認識」機能の実現を目標とした。それは、単にここが一番面白そうだと考えたからに過ぎない。ここで、認識というのは、何らかの判断を自動的に行うことを意味し、それと対照的な考え方、目標として、例えば画質の変換(改善)、計測、対話的な処理による判定のステップを除いたそれ以外のプロセスのみの自動化、などがあるが、これらは取り上げないと言うことである。もちろん、それらが認識に至るプロセスの一部に含まれることはあり得た。そのかわり、最終目標としての認識を実現するために必要ならば、直接には医療応用としては余り意味のない課題の解決にも取り組んだ。例えば、画像に写っているいわゆる正常構造の認識がそうである。胸部X線写真で言えば、肺野領域、肋骨、血管、などの認識である。これも現在でも続いており、CT画像中の臓器の認識は最後の頃の筆者の研究室の中心的なテーマの一つである。このような人が見れば明らかにわかるものを計算機で認識するのは意味が無いという考え方は当然一方に根強くあったが、これができなければ元々の目標である異常陰影の認識は不可能という考え方でこだわり続けた。また、人間、とりわけ医学関係者なら簡単にわかるものの認識は人間がやればいいという意見もかなりあったが、それは、恐らくそのような余り医学的に意義が高くない作業を人はやりたくないであろう、と考えてこの方向も採らなかった。
 そして、結果的には、胸部X線像中の肋骨の識別が後に欧米で最も早く認められ、引用度数も多い論文となった。今ではむしろ認識すべき異常陰影の探索範囲を定めるため、および、拾いすぎ誤り(正常構造を誤って異常とする判定)を防ぐために、正常な構造を認識の目標に含めること、しかもそれが計算機処理では相当難しい問題であることは常識となっている感がある。また、正常構造を認識するための論理が計算機にのる形には必ずしもなっていないことも次第にわかってくる。
(4)濃淡画像処理アルゴリズムのソース。“必要は発明の母”
 1960年代から70年代初めにかけては、濃淡画像処理そのものが研究の揺籃期であったから、胸部X線写真の認識に使えるような手法はほとんど無かった。そのため、まず濃淡画像処理の手法を開発する必要があった。そこで、当時は濃淡画像処理の基本手法の開発が我々の研究の中心となった。それでも目標は常に胸部X線像程度の対象に適用できるものという点にあり、そして実際に優れた手法が多数導かれてくる。その意味でまさしく“必要は発明の母”であった。
 その他、経時変化の検出、サブトラクション、そのための非線形変形、スケッチの作成、左右肺野の比較、エネルギーサブトラクション、空間周波数処理、など胸部X線像のCADで話題となる大抵の処理はやってみた[鳥脇94]。ここ2,3年はようやく胸部直接撮影像のCADの商用機あるいはそれと間近のシステムが出始めているが、そこに見られる大抵の課題の基礎的検討は行っていると自負している[鳥脇94]。しかし、胸部X線写真の計算機診断とそれを実現できるようなパターン認識は今日に至るまで解決に至っていない。その意味では正しくバックボーンに相しい骨のある問題であった。

3. テーマ2 ディジタル幾何学 -アルゴリズムのad hocな工夫から設計へ、第二のバックボーン-

(1)もう一つのバックボーン
 ディジタル画像の幾何学的処理には独自の考察が必要とされる。この問題をディジタル幾何学(digital geometry)と呼ぶ。ディジタル幾何学関連のテーマもかなりたくさん取り上げた。その最初の動機は細線化の基礎づけで有ったと思う。しかし、暫く後には予想外の発展を遂げ、今ではX線像のパターン認識に次ぐ(ただし、それとは別の面を支える)第二のバックボーンと言っても良いと考えている。ただ、テーマとしての性格では以下のように両者は全く異なる。
。慇像のパターン認識は、分野そのものから我々はパイオニアを主張できる。ディジタル幾何学は、それと比べると後発である。ここには、なんと言っても当時のディジタル画像処理の世界的権威であるA.Rosenfeld (アメリカ)が既にいた。従って、筆者らの最初の成果は彼の論文に基礎を置いている[Rosenfeld71]。
■慇像のパターン認識は実際の人体のX線像を対象にする実験的色彩の強い研究である。ディジタル幾何学は筆者らのグループでは問題の由来もたまたま応用分野も医用画像にもあるが、研究としては適用対象を限定しない理論的研究である。その成果はすべてのディジタル画像処理に適用できる。
 かくして、筆者のグループでもどちらかと言えば理論的問題向きの人が取り組んだ。しかし、後に出た代数的表現を中心とする手法は我々のグループ特有のものである。また、このテーマは海外でも上記Rosenfeldを始め、アルゴリズムや理論的研究を得意とする人たちとの交流のきっかけとして意義が大きく、むしろこちらの研究で我々を知っていてくれる人たちも今ではたくさんいる。例えばRosenfeld博士はその後何回かメリーランド大学の研究室を訪問し、国際会議でもよく会ったが、会うと直ぐにディジタル幾何の問題の議論を始める始末であった。その他、アメリカのPrestonら、イタリアのArcelli、Gabriella S. di Baja ら、スウェーデンのBorgeforsらのグループである。その意味で、やっぱりもう一つのバックボーンである。
 テーマ2の領域を研究室で最初にアタックしたのは、横井茂樹君であるがその前に鹿野清宏君、後に米倉達広、間瀬健二、成瀬正、斉藤豊文君らの、いずれも大学教官として活躍した、もしくは今でも活躍中の精鋭が続いている。
(2)総当たり法の有効性、局所関数、および局所パターン
 このテーマで筆者が特徴的と考える事柄の一つは、手法として何の工夫もない総当たり法の利用が成功したことである。その一つは2次元画像に於ける2×2、および3×3画素の局所パターン(0と1の可能な配置)。3次元ディジタル画像の2×2×2および3×3×3画素局所パターンの可能な総数を数えたことである。他の一つは連結数と言う特徴量の導出に際して、3×3局所領域の(=27画素からなる)可能な27変数関数をすべて数え上げてその性質を調べたことである。前者についてはオートマトン理論研究グループの理論屋さんの助けを借りて理論的な計算も試みた。両者が一致したのは当然とはいえ、ほっとした結果でもあった。しかし、理論的計数ができたのはかなり後であったから、総当たり法の有効性を十分感じた。3×3×3局所パターンの場合は計算機でもかなり後になって漸く総当たりができたが理論計算はかなり先行した。もっとも総当たり法では理論では求められなかったきめ細かいデータも得られたから、ここは一長一短である。
 総当たり法には特に工夫を評価される要素は無いが、今後は計算機の能力の向上とともに益々利用されよう。ポイントはその使いどころにある。なるべく小さい規模の総当たり法を適用すれば問題が解決するような型に持ち込むことがポイントであろう。
(3)理論式の威力
 オイラー数、連結数、曲率係数、連結指数などのディジタル図形の局所特徴を計算できる理論式を、2次元、および、3次元の図形に対して、各画素の値を変数とする疑似ブール式として与えられたことは、以後の研究に計り知れない効果をもたらした。それ以前は、いちいち可能な2次元あるいは3次元の0と1の配置をすべてチェックする必要がしばしばあったことを考えるとその効果の大きさがわかる。しかも、この式はFORTRANとC言語でプログラム化されていたから、後年の研究室メンバーの利用者の多くがその本当の効果を知らずに使っていたであろう。しかも、それは消去可能性の判定まで直結していたから、効果は一層大きかった。これらの代数表現の導出は他にはなかったから、これによって始めて我々のディジタル幾何学分野の研究が独自の方法論として確立したように思う。そして、これがベースにあって始めてテーマ2がバックボーンであり得たと考えられる。
(4)先行性の威力
 連結数を海外で発表したところ、殆ど同じ特徴量を欧米の2,3人の研究者が考えていたことがわかった。その中の一つは我々のものの丁度2倍になっていた。驚いたと同時に、世の中同じようなことを考える人はいるものであると感心した。しかし、我々のように数式表現を用いたこと、さらには消去可能性と理論的にきちんと結びつけたところはなかった。また、この成果は、英文の論文誌 (Computer Graphics And Image Processing (CGIP))に発表してあったから知らない間に一歩先んずる結果となった。それは恐らく紙一重の差であったが、その後の発表に際してよその研究を心配せずに自分の所の論文だけ(厳密にはそれとRosenfeldの論文)を引用すれば足りたことは、大いに助かったし、また自信を深めた。実際、以後のトポロジー保存細線化に関する発表では、少なくとも国内では我々の論文を参照せざるを得なかったことは、研究の先行性の威力をまざまざと感じたものである。余談であるが、上記CGIPの論文を、原稿の段階で英文を子細にチェックしてくれたのが、国内では同じ研究室に以前に在籍したことのある関野陽君(当時NECからアメリカに行っていた)、投稿後には当のRosenfeld教授その人であった。二人の助力がなければ他に先んじて英文論文にすることなどは到底できなかったであろう。
(5)連結数→曲率係数→消去可能性
 このテーマにおける我々の成果の意義は、今から見ると、ディジタル画像処理のアルゴリズムを導出する作業を、経験と勘に基づく試行錯誤(ad hocな導出)から要求性能を指定してそれを満たすアルゴリズムを作ると言う意味で「設計」に向けた第一歩であった。具体的に可能な指定項目は「連結性の選択(4連結と8連結)」、および、「トポロジーの保存の要、不要」であったが、それだけでも大きい発展であったと思う。もっとも、そう言えるのはかなり後になってからである。
(6)2次元空間から3次元空間へ
 1980年代に入ると、医用画像のCT装置にヘリカルCT(スパイラルCT、螺旋走査CTとも言われた)という大きな発展があり、3次元ディジタル画像が処理の対象として考え得る状況となった。我々は今後の医用画像の中心は恐らく3次元画像になると考えたが、同時に、3次元のディジタル幾何学が面白い(且つ、必須の)研究テーマになることも確信した。しかし、3次元幾何学が非常に難しそうであることも何となく感じていた。そこで、取りあえず、2次元の場合とほぼ並行に行けるところまで進めることを考えた。この問題は前記の横井茂樹君や当時修士課程に入ってきた米倉達広君が中心になって、いわば、外から見ると既製のレールの上を進むように一気に進めてしまった。実際は、予想通り難しくもあったが、一方では、2次元の経験からやるべき方向と課題が有る程度わかっていることの強みも体験した。我々にとっては有る程度既定の路線であったとはいえ、もちろん、外から見ればすべてオリジナルな成果であった。また、このときの成果の本当の威力は、1990年代以後にわかってくる。実際、3次元ディジタル幾何をベースとする基盤のしっかりした仕事がさほどの困難なく進められたのは、この時期の先行した成果があったからであり、その意味では将来の方向性を見通した基盤研究の重要さが強く感じられたものである。もっとも、当時のこのテーマを選んだ動機は、やはり筆者の好みだったかもしれない。実際、「この論文にあるような画像データ(注:3次元ディジタル画像)が使えるようになるのはいつ頃か」という質問が発表するたびに出たのは、テーマ1と似ている。
(7)ディジタル画像のオイラー数はベースに問題を残す
我々のディジタル幾何学的研究の基本は、2次元図形については曲率係数、3次元図形についてはオイラー数にある。筆者は、両者とも完全に納得できていない点が残る。例えば、2次元の曲率係数に対応する3次元の特徴量を見出していない。また、その性質の証明(2次元の場合)はRosenfeldによるが、わかりにくい。3次元ディジタル図形のオイラー数の定義にも曖昧な点があるように感じている。これは、機会が有ればもう一度これから考えてみたい。

4. テーマ3 画像処理エキスパートシステム IMPRESS -基本特許相当の抜群のオリジナリティ-

(1)画像と画像サンプルの入力、アルゴリズムの出力
 このテーマの最大の特徴は、「処理する画像とそこから抽出したい画像(目標)の両方を入力してアルゴリズム(処理手順)を出力する」という、有る意味では逆転の発想とも言える問題設定にある。すなわち、画像処理に関する知識ベースを持ったシステムが、ユーザの希望に応じて最適な手順を導いてくれる、一種のエキスパートシステムである。画像処理エキスパートシステムは、当時(1980年代始めに)画像処理の分野では一時はやったテーマである。
(2)画像のみでできるという仮説と実証
 この問題に対して、他の研究では「一種のメニューを画像、または、文字記述、あるいはその両者で提示して、ユーザが適当に対話的に情報を入力する」と言う方法が採用されていた。これに対して、我々は、「***のような画像から−−−のような図形を抽出したい。それを行う、良いアルゴリズムが欲しい」と言う形で、***の所(処理対象画像)と−−−の所(ゴール、あるいは、目標図形)に相当する画像のサンプルを与えるのみで途中には一切対話を要せずに、システムが自らの評価基準に従って最も良いアルゴリズムを出力してくれるようにした。この、「画像のサンプル」のみを与える、「その後は自動的に手順を出力する」の2点は全く余所には類を見ない方式であり、ともかくそれが可能であることを実験的に示したこと共に、抜群のオリジナリティであったと考えている。この方針は筆者が指示したものであるが、実際にこれを卓抜なアイデアで実現したのは長谷川純一君を中心とするこの問題に取り組んだグループである。もちろん、当時のシステムと方法を詳細にみれば限界はいくつもあったが、上記の2点の基本的方針に於いてはオリジナリティは非常に大きい。そう言う点で、荒削りながら本質的な点でのオリジナリティの重要性を明確に示す例となった。システムの略称をIMPRESS(Image PRocessing Expert System with Sample images)と名付けた。そして、対象を線と面にわけ、さらに導出結果の扱い方(手順の統合)とに分けて院生諸君とで分担して、ここまでアイデアから2,3年で一気に基礎的な部分を片づけた。
(3)アルゴリズム空間の探索法の効率化
 この問題のもっとっも重要な部分は知識ベースにあるアルゴリズムの可能な組合わせの中から最適なものを探す、いわば、アルゴリズム空間の探索であったと思われる。そして、ここに我々は巧妙な方法を工夫した。詳細は論文にゆずるとして、キーワードをあげれば、「大まかな処理手順と詳細手順の2段階に分ける」、「最適手順の発見に前向き探索と後ろ向き探索を巧みに組み合わせる」、「処理手順の評価の尺度の設定」、という点であろう。さらに、バックトラック(後ろ向き探索)における大胆で性能をそれほど落とさない枝刈り、アルゴリズム群を予め2,3種の大まかな処理手順に要約する、といったシステム実現上のアイデアもよかった。そして、結果的に、少数サンプルでも過学習にならない仕組みができていたのは、おそらく発案者も意識していなかったのではないかと思われる、むしろ幸運と言うべき点であろう。
(4)よい基本アイデアがあれば展開は無限
 上記の展開は筆者自身も予想しなかった成功であったが、さすがに、ここまでで一段落で後は良い具体的応用があるといい、くらいにと考えていたところ、次の若手のスタッフのアイデアで全く予想外の展開を見せることになった。これも専門的詳細は省いて、キーワードをあげれば、次のようなことになろう。
(a)逐次型と並列型の手順選択の併用、
(b)3次元画像処理への拡張
(c)統計的分類の組み込みと少数標本に対する対応
(d)ゴール分割、または、サンプル画像の変形・編集過程の導入
(e)負サンプルの導入、利用
(f)アルゴリズム空間の探索効率と知識獲得、発見科学との関係
これらの一部は始めから想定していたが、大部分は、テーマを発案した筆者自身が予想もしなかった展開である。そして、これらはほとんどが今でも未解決、もしくは、着手したばかりで終わっている。また、どれも当初の基本的構想にも変換を要するかもしれないほどの基本的な問題を含む。
 実はここにあげたキーの重要な部分が、本テーマに興味を持って内地留学として入ってきた濱田敏広君による。そこには目的意識を持った実用化への強い動機があった。このあたりには、当時の研究室の自由で開放的な雰囲気が寄与している。また、一方では初めの基本構想が優れていたからこそ、始めて生じた展開であるとも言える。そう言う点では既定の枠がなくて自在に展開できた例である。おそらく、学内のスタッフだけではこの段階の発展は望めなかったであろう。
(5)知識工学と関係
 このテーマのもうひとつの特徴は、知識処理、発見、探索、プログラム自動生成、などのいわばソフトウェアとか人工知能の基本問題に結びつく面が多分にあることであろう。その点では、医用画像処理ともディジタル幾何学とも違う性格を持つ。筆者自身も画像処理アルゴリズムの知識処理に関する、知識工学的問題を見直した面もある。
(6)英文の論文がない
 このテーマの研究の大きな欠点(と筆者が考えること)は、英文で論文を書いていないということである。もちろん、国際会議では何回か発表しているが、テーマの性質上、短い、しかも話が万全ではない口頭発表と論文集程度では本当の意義は理解されにくい。これも残された課題といえよう。

5. テーマ4 発見科学と画像からの知識獲得 -未開拓に終わった研究テーマの宝庫-

 文部省科学研究費補助金特定領域研究“発見科学”が1998年から発足した(正確には、「発見科学:巨大学術社会情報からの知識発見に関する基礎研究」、代表:有川節夫九州大学教授)。これに筆者は総括班の一員として準備段階から参加していたが、研究としても斉藤豊文君が公募研究班の一つとして参加した。これが本項のテーマである。
(1)未完に終わったテーマ、未発表に終わった成果
 研究室でこのテーマにもっぱら携わったのは、斉藤豊文君(当時助教授)であったが、この研究班の研究会(2000年10月)に発表のために出かける当日に病に倒れてそのまま帰らなかったという予想もしない結果になった。当然、そこまでに得られた成果もついに論文としては未発表に終わった。論文に書けなかったのは、筆者の時間がとれなかった事にも原因がある(実際は斉藤君の残した成果はいくつも論文にしておいたが、結局最後にこれが残ってしまった。斉藤君、ご免なさい)。しかし、筆者が構想していた研究テーマは有り余るほど有った。あいにく、筆者自身の定年退官直前のできごとであったから、文字通り、未だに筆者からみると『未開拓に終わった宝の山』である。この種の割合抽象的な考察を要する問題は、例えば、実験的に結果を詰めていくタイプのテーマと比べて途中からの継承、再開がしにくいというのも実感である。
(2)画像からの知識獲得と発見
 研究の詳細は省くが、目指したのは、画像からの知識発見であり、また、アルゴリズム型の知識の扱いであった。この点では、先に触れたテーマ3のIMPRESSとつながる。筆者としては、研究費特定領域研究の『知識科学』、『感性情報処理』、『知的データベース』を通して、表面に出たテーマは異なるが筆者の頭の中では一貫して追求していたテーマの1つであった。しかし、ここで残念ながら中断してしまう。
(3)アルゴリズム空間の探索法の研究
 ここでも、テーマの大きい部分を占めるのがアルゴリズム空間の探索である。例えば、『論理』、『統計的決定』、『ニューラルネット』、『GA』などとの関係、探索効率の考え方、アルゴリズムの集合のデータマイニング、などがある。

6. テーマ5 距離変換 -際だって筋のよい問題群-

(1)テーマの全体像
 距離変換というテーマは、すでに述べた中では、テーマ2 ディジタル幾何学と密接に関係する。しかし、そこに含めるには大きすぎる広がりを持っていた。このテーマの特色は、理論的に非常にきれいな議論ができ、また、きれいな結果を生み出すこと、それでいて応用上も非常に強力であること、そして、この特色を引き継いだテーマが次々に出てきたことである。『筋の良い』という表現はこれを指す。そして、実は、このある種の筋の良さとでも言うべき点が研究テーマとしては非常に大切であるという感じがしている。ただ、こういう筋の良さを備えたテーマを見つけることは非常に難しい。ちなみに、こういう理論的きれいさを備えたテーマは、筆者の全テーマ中でも3次元ディジタル幾何学の一部と本テーマだけである。
 そういうわけで、このテーマも筆者の全研究歴を通じて何らかの形で関与し続けた。先のテーマ2の諸君がすべて関係する。その端緒は、細線化の一方法としてのWave Propagation Method (WPM 1970〜1971頃)[鹿野71]である。その直ぐ前の筆者の最初の線図形抽出の論文[小柳津70](1970)と比べるとアルゴリズム的なきれいさでは雲泥の差がある。最近では、2001年の論文がある[番正01]。なお、上のWPMはやはりネーミングとしても成功した一例で、よく覚えていただけた。ただし、先行研究が欧米に相当あり、それらを追い越して本当に先頭にたてるのは画像演算による定式化が確立した1975年頃である。特に、連続図形に対する欧米の先行研究がなかなか骨のある成果であって、これを上回る特色をもつ成果をディジタル図形において導くのは非常に努力を要した。それにもかかわらずこのテーマに入った理由は、単にWPMをそれと知らずに始めたからに過ぎない。WPMには、細線化の発想としてそれだけオリジナリティがあったが、よく調べるとそれだけでは発展性は少ないようにみえた。その点からは、ここで止めていてもおかしくはなかった。それを続けた理由がどこにあったか今ではわからないが、多分アルゴリズムのきれいさに引かれるところがあったのではないかと思う。ここでやめたら後の大発展はなかったから、幸運であった。
(2)スケルトン抽出、逆距離変換
 距離変換に関しては、やはり詳細は省くが、変換そのものと共に図形の心線としてのスケルトン(skeleton)の抽出と逆距離変換が存在する。これは、細線化、形状特徴抽出、図形圧縮など様々の応用に結びつき、また、アルゴリズムの問題にも多様性を生み出して、大きな特色となっている。
(3)アルゴリズムモデル
 このテーマの最大の特徴の一つは、特にディジタル画像についてはアルゴリズムとしてしっかりしたものが作れるということである。それに関しては、例えば次のような特色ある問題がある。
  a.逐次型アルゴリズムと並列型アルゴリズムの導出
  b.それらの反復適用と収束性
  c.両タイプの等価性
  d.逆変換に関する同様の議論
(4)集合演算、モルフォロジー演算
 一方、欧米を中心としてモルフォロジー演算と呼ばれる一連の図形に対する演算の理論があり、それがある範囲では距離変換と等価である。それは専ら連続図形に対して考えられているが、もちろん、ディジタル画像にも適用できる。それは、点集合と図形集合(あるいは画素集合とディジタル図形)を結びつける役割を果たした。
(5)画像演算による記述
 距離変換はディジタル幾何学で述べた画像演算としての定式化が非常にきれいにあてはまる領域でもある。画像演算を用いてディジタル画像の距離変換の一般的理論を与えた1981年の論文[横井81]で我々がこの分野でも初めて世界の先頭に立てたと考えている。
(6)多様な拡張と変型
 距離変換の概念は、例えば下記のような実に多様な変型や拡張ができた。これらの導出や統一的理解は、上記の画像演算による定式化が寄与するところが大きい。
  a.濃淡画像の重み付き距離変換
  b.方向性距離変換
  c.線図形距離変換
  d.ディジタル画像用の多様な距離尺度への対応
  e.図形融合
  f.ボロノイ分割
(7)ユークリッド距離変換が最大のヒット
 画像処理アルゴリズムに関しては、様々の領域や応用に関連して沢山の成果を出したが、その中でも最高の傑作はユークリッド距離尺度による距離変換アルゴリズムではないかと考えている。これは、前記の齋藤豊文君の最後の成果である。それは、ディジタル画像の中に通常のユークリッド距離尺度による距離変換をアルゴリズム的にはかなり効率の良い手続きで可能にしたことによって、一挙に距離変換の有効性を高めた。とりわけ、ディジタル画像用の6近傍や26近傍距離の距離尺度としての偏りが目立つ3次元ディジタル画像においてその効果は一層際立つ。実際、3次元CT像のCADにおいて、認識された臓器からのユークリッド距離がいつでも計算できることがどれくらい役に立っているか計り知れない。ただ、アルゴリズムの理論的な面からは、逐次型でも並列型でもないので、きれいさは少々落ちる。また、さすがに最近では一層の高速化が望まれる。
 研究の経緯から見ると、ユークリッド距離そのものでなくてもその自乗が求まればよいと言う“一瞬の”発想の転換から一挙に問題を解決したプロセスの面白さ、研究室で院生との日常的討論からその着想に至ったとき、あまりの平凡な考えに当の斉藤君でさえその重要性に気づかず、筆者がその潜在的な意義に気づいて一気にアルゴリズムとしての完成に持って行かせた点でも会心の成果として記憶に残る。
(8)形状解析
 距離変換には、まだ触れていない側面がいくつもある。その一部をあげる。ここは実は我々が特に研究テーマとしては正面から取り上げてはいない側面である。ただ、筆者は距離変換というテーマの大きさを評価する要因の一つとしては重要と考える。
 その1つとして形状解析がある。形状解析の一手法として距離変換、というよりむしろスケルトン(medial axisの様な呼び方がされている。)がきわめて重要である。この点では、ヨーロッパの研究者を中心として古くから研究されてきていた。これは連続図形に対する研究が中心であったから、中にはそのままディジタル図形には移行できないところもあった。また、前記の通り、この研究を上回る独自の成果を出すのには苦心を強いられたところでもある。もちろん、それらをディジタル図形に移すだけでもある程度の研究にはなったが、それだけでは筆者の考えでは本当にいい研究にはならない。後に、我々のグループの独自性が出てきた中で改めてそれらのディジタル化を見直したとき初めて試みる価値が出てくる。形状特徴としての距離変換やスケルトンの利用はそのような意味でも多少は試みている。
(9)生体の視覚
 形状特徴としてのスケルトン、medial axisには、ヒトや生物の視覚の特性との共通性を言及するものもあったように記憶する。ここも距離変換というテーマの別の側面があるかもしれないが、我々はこの面からの研究成果や知見は持たない。

7. テーマ6 仮想化内視鏡システム -“仮想化された人体”とナビゲーション診断への序章-

(1)“仮想化された人体”とナビゲーション診断への序章
 筆者の研究テーマの中でのこのテーマの最大の意義は、仮想化された人体とナビゲーション診断への入り口に立ったということであろうと考えている。この点はこれから色々考えて、あるいは、実現していくことであろう。後進の人たちのこれからの仕事である。
(2)単なるビューア、強力なビュ−ア
 仮想化内視鏡システム(virtualized endoscope system 以下VES)は、機能面に限ってみれば開発当初から3次元濃淡画像を可視化するソフトウェア(ビューア viewer)の一つで、それほど画期的でもなければ、新規なものでもない。CGの描画機能のサポートのあるコンピュータならば現在では新たに作ることも難しくはないであろう。しかし、人体内部に視点をおき、自由に動き回るというパフォーマンスを実現できるという機能を見ればきわめてユニークで従来にない強力な可視化ツールである。この点で評価が分かれる成果である。
(3)熾烈な、余り意味のない先陣争い
 VESの特許を日本に申請してきたアメリカの研究者が現れたことから、図らずも、どこが最初に発表したのかを調べざるを得ない羽目になった。筆者個人としては、上のように先行性をそれほど意識してはいなかったが、論文としてのオリジナリティを主張するのに必要な程度の調査はしていた。このあたりの詳細はすでに発表してあるので省略するが[鳥脇02]、アメリカの全く別の研究者はワイヤフレーム表示の脳の組織上を高速に移動する映像を1979年頃出しており、共同研究をしていた片田和廣教授もすでにこの頃から人体内を“フライスルー”するという構想は持っておられたと言うことなので、VESの機能の本質は何かをはっきりさせておかないで先行性を議論しても余り意味はないと筆者は考えている。特許云々は、各国の法律や特許戦略が絡むからまた別の問題である。
 ちなみに、筆者の知る限り、仮想化内視鏡システムという(あるいはそれに近い)名称のシステムを発表したのは、筆者ら(森健策、鳥脇純一郎、片田和廣、安野泰史)が国内で1994年6月、件のアメリカの研究者(Viningら)が1993年11月である。しかし、筆者らのは94年6月時点で、リアルタイムナビゲーション可、自動セグメンテーション可、個別被験者対応可、Viningらは、計算機の性能から見てもリアルタイムナビゲーションは恐らくできていない(後述)。なお、筆者らの発表の機会としては国内で可能な最も早い機会(3次元画像コンファレンス)を用いた。ここで時間を稼いだことが後に国際的にもオリジナリティを主張できる大きな根拠となった。筆者は和文発表の意義ももっと主張して良いと考えている。明らかな発展途上国ならいざ知らず、日本程度の先端技術をもつ国では、もっと自分の国の言語の意義に自信を持つべきであろう。もちろん、英文での発表も同様に重視すべきことは当然である。
(4)重なった開発途上の幸運。しかし、素直な展開の結果。
 このテーマは狭い意味では、我々のグループには珍しく(と筆者は思う)短期間にソフトウェアシステムの開発と実現(インプリメンテーション)に集中して行ったものである。しかし、それまでに医用画像のセグメンテーションと3次元ディジタル画像の可視化の手法に関する長い期間の蓄積が有った上に、たまたま胸部CT像のCADの研究からセグメンテーションの技術として直接に使えるものがあった、という10年以上に亘っての蓄積の上に立つ結果であることも忘れてはなるまい。そこで、対象器官を自動切り出しした後、その結果をサーフェス・レンダリングで描くという過程をごく自然にとれた。当時のコンピュータの能力ではサーフェス・レンダリングを使えば何とかリアルタイムのレンダリングができる状態であったが、もしボリュームレンダリングを採用していたら、およそもう1年はたたないとリアルタイム・レンダリングはなかった。その一方、森健策、斉藤豊文、清水昭伸君ら当時の研究室のメンバーはいずれもソフトウェア化にも優れた人たちで、操作画面の基本的構成などは現在でもほとんど変えなくても良かったくらいである。そういう意味で、本テーマはそれまでの成果の蓄積の上に立って、それにプラスするソフトウェアのインプリメントの良さも最高に発揮されたものである。筆者としては、この行き方をとった裏にはそちらに堪能な人が揃っていることが大きなファクタとしてあったことも確かである。余談ながら、1995年頃のアメリカの雑誌の記事によれば、Viningはワグナーのワルキューレの騎行の曲をバックに大腸内部を飛行する映像(バーチャル・コロノスコピー)を見せて喝采を博したとある。ただし、映像はビデオ編集であると書かれている。
(5)視点を変えることは認識(身体観)を変える?
 筆者の当時考えたことはVESそのものとは少し違っていた。それは個々の被験者の再生版であるディジタル画像をコンピュータ内に持つことの意味とそれをどう使う可能性があるか?ということであった。そこで、個別人体のコンピュータ内再構成版を『仮想化された人体 virtualized human body  以下VHB』と名付けた[鳥脇97]。それは、全く想像上で考えた人体(これは恐らくバーチャル人体とでも呼ばれる)とも一例だけモデル的に作られたデモ用サンプル(解剖学のテキストや理科の標本)とも違い、ひとりひとりの実在の具体的人体のディジタル化である。この両者は峻別すべきであろうと考えたためである。この点をいち早く評価して下さったのが放医研の舘野之男先生である[舘野02]。その上にたって、VHBの中を全く自由にナビゲートし、さらには変形もしつつ診断する、ということの可能性を思い浮かべてナビゲーション診断と呼んだ。筆者は、VHBとその内部の自由な飛行が恐らく何年か後には我々の人体観を変えるのではないかという気がしている。それは、例えば、人工衛星からの地球表面の画像を日常的に見ている人々が全地球的な発想を特別なことと思わなくなっている、と言うことに相当するのではないかと考えている。
(6)“ミクロの決死圏”は実現されたか?
 VESの発表とともに沢山の人から、これが1966年のSF映画“ミクロの決死圏”を思い出させる、あるいは、その実現の第一歩であるという感想を頂いた。そういう点では、一般からの反響の大きさでは有数のテーマであった。もっとも、筆者の頭の中では依然として単なるビューアであるという感じも強い。また、ミクロの決死圏(原作I.アシモフ)にはパート2があって、人間は電子レベルまで縮むから、実現はまだまだである。
(7)情報強化エンドスコピーへ
 今後は、VES画像と実画像(実際の患者の身体の内視鏡検査画像)を重畳表示したり、VES画像上にさらに色々の情報を載せて表示する、情報強化エンドスコピーが一層重要になろうと感じている。実人体に戻らない限り、診療に本当に役立つものにはならないと考えるからである。これについては、2002年のMICCAIという国際会議で一つの可能な形を示し、発表者森健策、出口大輔両君は参加者の絶賛を受けた。出口君は修士課程1年生で始めての国際会議であったことを考えると、確かに我々も世界の先頭にいることを実感した。それと共に、筆者の場合最初の国際会議発表が30歳の時(AISCRーV1)であって以後も大体2年に一度の割合でしか発表していない(それでも同世代の中では決して発表が少ないわけではない)ことを考えると、時代は確実に変化していることも感じられる。若い諸君の今後の一層の活躍を期待する所以である。

8. テーマ7 認識システムの確率モデル -新幹線2時間の大ヒット-

(1)新幹線2時間で生み出された理論モデル
 このテーマはX線像のCADの一つの理論モデルを提起したものであるが、その特色はモデルを導出したプロセスの時間にある。実は、これを考えた日に東京でCADシステムの研究者のクローズドのある検討会が開かれ、そこでの討論をきっかけとして筆者が考えたものである。考えたと言っても、東京発の新幹線ひかりの指定席に座って考え始めて名古屋に着くまで多分実質的には2時間弱の間に、理論モデルからそれに基づくシステムパフォーマンスの具体的な計算式まで作ってしまったものである。検討のきっかけとなった話題は実はこのモデルとは殆ど関係がない。この分野では旧知のCADの専門家山本真司教授がスクリーニング用のCADの実用化に於いてはむしろ拾いすぎ誤りを減らす方が大切で、また難しい、という彼の持論を話してごく簡単な数値例を示したのに対して、何となく、もう少しきちんとした説明ができるのではないか、と感じて缶ビール片手に考え出しただけである。その結果、どういう訳かトントン拍子に考えが進み、一気に具体的なモデルと数式表現の導出に至った次第である。
 翌日、会議資料の裏面に車中で書きなぐったメモを見直して、きちんと形を整えたが、どうも間違いは無さそうである。そこで、当の山本先生とこちらの清水昭伸君に名大の研究室に集まって頂き、改めて全体を紹介して、検討した結果、ともかく数値データまで出してみようということになった。そうはいっても実は計算そのものが難しい級数の和などになって我々の手に余る。同じ専攻の数値解析の専門家三井斌友教授に知恵を拝借したりして、清水昭伸君がともかく一応の結果を出した。その後今でも改良を続けているが、既に学会誌の論文3編にもなった。
 なぜこれほど短時間にあれだけの仕事ができたのかは、今でもわからない。もちろん頭の片隅には以前からこの種のモデルのことはあったが、それまでまじめに考えたことはなかった。筆者の40年の経験でも唯一の例である。
(2)初期モデルはスクリーニング型と細胞診型
 このモデルの要点は、要素技法(例えば、異常候補陰影抽出フィルタ)の性能(検出率など)を与えて、システム全体の認識率(あるいは見落とし、および、拾いすぎの確率)が求まるようにしようという単純な考え方にある。当初のモデルは、X線像診断型と細胞診型の二つに分けていた。筆者の頭にあったのは、画像のスクリーニングシステムの設計の指針となるような理論モデルの必要性である。具体的には通信システムにおけるトラフィック理論のような役割のものであった。残念ながらまだこのレベルまでは行っていない。尤も、まだCADシステムの実例がやっと出たばかり(1998年)であるから仕方がないかもしれない。
(3)エキスパートシステムとの結びつき
 このモデルは、実は前記のIMPRESSのような画像処理エキスパートシステムとも密接な関係がある。ここもまだ考察していない。
(4)英文の論文がない
 ここでも英文論文がないことが残念である。元々筆者がほとんどすべて考えたのであるから、これこそ筆者の責任であると言われそうで、面目ありません。

9. テーマ8 組織標本顕微鏡像の画像処理 -研究の節目に現れる不思議な存在-

(1)ミクロの世界の精妙な美しさ
 組織標本とは、病理検査などに現れる生体組織の標本を意味するが、ここではもっと広く、人体に限らず生体組織の顕微鏡画像を意味する。それは通常でも色を持つが、さらに染色によって色づけされるものも多い。筆者がこれを見たときの第一印象は、曰く言い難い『ミクロの世界の精妙な美しさ』である。色、かたち、そして時に動きや機能も含めて人工的映像には無い複雑さと美しさがあるように思う。もちろん、現在のコンピュータグラフィックスを用いれば、それらに匹敵する、あるいは、それらを上回る映像を作り出すことは不可能ではない[河口94]。当然筆者はパターン解析(認識、計測、3次元再構成、など)の対象としてそれらに相対する。しかし、その都度改めて美しさにも感嘆する。
(2)研究の節目に現れる不思議な存在
 組織標本の顕微鏡像の処理を、単独のテーマとして行ったまとまった研究は筆者の経験には実は無い。ただし、筆者の研究全体の流れの中で比較的短期的なテーマとして取り上げた例は幾つも存在する。そして、全体的な研究の流れの中では、主要なテーマが一段落したときの一時的つなぎを思わせる位置にそれらが現れ、次の時代を牟引する方法を生み出してきているように見える。因みに、これまでに取り上げた例とその時のキーとなった手法をあげてみよう。
(a)神経細胞−3次元画像処理の第一歩、8角形距離変換の適用(1984〜85)
(b)脳下垂体組織−テクスチャ解析、および大型の2次元濃淡画像。複雑な大規模2次元濃淡画像のテクスチャ処理の事実上始めての例(1975年頃)
(c)脳と血管−CGによる生体の3次元構造の可視化の出発点(1984〜85)
(d)肝臓組織の毛細血管抽出と3次元位置分布の計測−3次元ユークリッド距離変換の最初の応用例(1991年〜)
(e)伸展固定肺のマイクロビームX線像ー複雑な3次元画像のトポロジー特徴の実例(2003〜)
 もちろん、それぞれが固有の意義を持つ応用例であるが、同時に筆者としては何となく手持ちの手法や対象に行き詰まりや物足りなさを感じはじめて、次の飛躍とか発展の方向をつかみたいと感じているときに取り上げた結果になっている。もちろん、研究の進行の都合でたまたまそうなったのかもしれない。そして、上のようにどれもそれぞれ次の時代の中心テーマまたはそのための手法のきっかけとなっているようである。そう言う意味ではどれも貴重な位置を占める。しかし、それだけで長期的に研究室の主要テーマとなることはなかった。顕微鏡画像はある意味では『多品種少量』であって、コンピュータの大規模処理にはうまく乗らないような印象も受けた。もちろん、染色体の形状分類、細胞診、血球分類のように医用画像の計算機診断の中では歴史的に非常に大きな役割を果たしたものもあるから、むしろ筆者のテーマ選択上の好みが出た結果かも知れない。また、それぞれの時代の技術レベルの中での結果であることも考えておく必要があろう。それでもこれだけ研究の転換点に効果をもたらした最大の要因は、結局画像自身に含まれる生体組織の複雑さ、それの処理に要求される手法のレベルの高さにあるのではないかと思える。

10. テーマ9 コンピュータ・グラフィックス -アッピール度抜群のコマーシャル-

(1)アート、楽しさ、感性、・・従来の工学にない性格の領域
 コンピュータ・グラフィックス(以下CGとかく)には、筆者の研究の中では比較的遅く、1980年頃から手をつけた。そのきっかけは、3次元濃淡画像の可視化であったから、医用応用を意図していたが、同時に、CG固有の問題として質感表現、今で言うフォトリアリスティック・レンダリングの手法も研究した。ここは、横井茂樹君、安田孝美君らが主に取り組んだ領域である。コンピュータで絵を描くツールと言うことから、出来上がりの美しさとかリアリティに関心が向けられる点が、それまでの工学にはなかったコンピュータ・アートとか感性とか美的センスなどの言葉となって新しい工学の領域の出現を感じさせた。それは、それまでのハードウェアを中心とした工学に対して、ソフトウェア、知識、知能、推論、発見、などを扱う新しい領域の工学の出現と相まって一層の活気を呈した。
 筆者らの研究も、レイ・トレーシングから、宝石、シャボン玉、雲、その他様々の美しい映像を作り出してこの領域の「アッピール」に貢献した。とりわけ、宝石やガラス器などの透明物体の表示は初期のCGの発展には寄与したと考えている。余談ながら、宝石のディスプレイに関しては日本宝石学会誌と言う雑誌に論文を出す機会を得た。また、河口洋一郎教授のようなコンピュータ・アートの大家の知己を得た[河口94]。
 その後、CG全体は膨大な分野に急発展を遂げる。しかし、その一方で筆者自身のCGに関する研究は、医用応用を除けば特に多くはない。それは、むしろ、医用画像処理がCADもCASもどんどん発展して、そちらに忙しくなってしまったことが大きい。その後、CGはいっしょに始めた横井茂樹君に任せきりである。
(2)手術シミュレーション
 医用応用では手術シミュレーション(1985頃〜)が大きな成果であった。これも、後の仮想化された人体の利用につながる序章の一面と言えよう。今活況を呈しているコンピュータ外科、シミュレーション外科の分野の創設には一つの動機になったと自負している。
(3)仮想世界のインタフェース
 筆者が当時からCGの意義を感じた最大のポイントは、イメージ・インタフェースとリアル、仮想を問わず、あらゆる現象の可視化という点であった。それは暫く後に出たバーチャル・リアリティ(VRとかく)と結びつくとき、一層有効となる。この点を構想してVRと発想支援環境というテーマのプロジェクトで当時(1996年頃)の先端のディスプレイ用マシン(ONYX)を導入する予算が取れたことが、実はCG応用の我々の研究には非常に貢献した。後に、手術シミュレーションも仮想化人体という仮想環境の操作であると言う考え方に至る。
(4)モデリング
 CGのもう一つの面は、描画の元になる事物、現象のモデルである。結局、映像が描けると言うことは、『何を描きたいのか』(あるいは、『何を描こうとしているのか』)に関する何らかの答えが計算機の中に用意されているということであろう。この意味で、CGの研究課題のもう一つの重要なものは、モデルの作り方ではないのか。これは、筆者が抱いていた問題意識の別の一面であるが、詳細は今後の問題であろう。もっとも、CGの技術基盤とにモデリングとレンダリングがあるという考え方は今では定着している。 (5)目的は何であったのか。
 CGの思いがけない効果の一つは、ある種の一般向けアッピールの効果であった。例えば、医用応用に於ける手術シミュレーション、仮想化内視鏡、そのまた応用であるミイラの可視化、さらに、宝石の表示も、ドライビング・シミュレータも、すべてその途中のプロセスはともかく、結果の映像のPR効果は抜群であり、その点では筆者の研究も含めて関連分野の研究に対する一般の人たちの理解を得るのに抜群の効果があった。実際、筆者の研究の中でも、テレビや新聞の取材もこの領域が抜群に多かった。  一方、多少大げさに言えば、森羅万象、世の中のあらゆる事物の一つ一つにCGによる表示の手法の開発が必要で、それがまた研究テーマになると言う状態が果たして望ましい扱いなのか、は筆者が暫く後から感じ続けていた疑問である。いったい、CGの目的は何なのか、と言うこの項の表題はここから来ている。

11. テーマ10 形の科学 -固定概念を超える新しい発想の源、最高の学際領域-

(1)“かたち”はどこにでもあるが、理論は高度
 『形、かたち』はどこにでも有り、誰でもなにがしかの興味を持った経験は有ろう。しかし、その理論的な面はまた極めて高度である。自然物の形、人工物の形、それぞれに恐らくいまの形をとるに至る必然の経過が有るのではないか、もしかすると自然現象を支配する原理は形の中に潜むかもしれない。ここから、多くの人があらゆる分野で『かたち』に興味を持つ。『かたちの科学』と言う学問領域があり得る、と意識した世界の研究者から、『かたちの科学(Science on Form)』の研究が意識され、『形の科学会』なる学会も国際会議も生まれた。形の科学に関する全般的知識は、[高木03]をみるとよいであろう。
 筆者がこの分野に関与し始めたのは、文部省科研費総合研究『形の科学』に参加の機会を得たことに始まる(1985年頃)。その後、第一回形の科学国際会議(1985)が日本で開かれ、そのプログラム委員長を経験した。そのお陰で、かたちと言うテーマで研究する驚くべき広い範囲の人たちの研究を知ることができた、大いに目を開かれた。以来、それは筆者にとっては固定概念をはるかに越える発想をもたらしてくれる、まさしく、最高の『学際領域』である。
(2)新しい寄与
 こういう学際領域の学会では、自分独自の基盤の分野、テーマを通して共通する『形』の問題に寄与し、また、新たな情報を得る。筆者の場合は次のような領域で寄与してきていると思っている。
(a)かたちの計測
(b)コンピュータで形を扱うことのあらゆる側面
(c)コンピュータによる不可視情報の可視化
(d)人体組織の形状解析
(e)コンピュータで形をさわるー仮想彫刻、仮想版画
 ここは、どちらかと言えば筆者がその時々に研究室で取り上げていたテーマの中でこれはと思うものを『かたち』の面から考え直しては発表してきているから、始めからテーマとして設定して取り組んだものは少ない。そう言う点では、期限とか、業績を争うとか、何に役に立つか、と言うことより、そこから一歩引いて興味を優先させて問題を選んでいる(あるいはそうすることができる)、研究者冥利を味わえる分野である。特に、発想の展開の伸びやかさが許される点は、他の分野の研究のためにも大きな駆動力になる。もちろん、投入するエネルギーは結構大きく、決していい加減にやっているわけではない。実際、学際的であるだけに、自分だけが新しいと思いこんでいても思いがけないところで既に問題は解決されていたりする。また、異分野への説得力を持つためには、それなりにフィロソフィはしっかり持たなくてはいけない。かえってそういい加減には取り組めない。
(3)仮想彫刻、仮想版画
 この領域に継続的に発表しているテーマは、ほぼ二つ、一つは前記のディジタル幾何学的な問題、もう一つが仮想彫刻・仮想版画である。前者は数理的な面が強く、いわば、形の科学でも古典的で理論家がいる領域である。ただディジタル画像という点では、筆者のグループの蓄積がまだまだ生きている。
 後者は、この数年VRの一応用として取り上げたもので、コンピュータ処理の活用の新しさで、意外におもしろい面が次々に出て来て比較的よく続いている。もっぱら、岡田稔君、水野慎士君が取り組んでいる。うまくいけば、大人も子供も楽しめる、と言うことになると期待している。これだけテーマがあった中で、実際に小中学生にシステムを使って貰ったことがあるのはこれだけである。

12. サブルーチンパッケージ SLIP -過去の成果の蓄積であり、かつ、次の成果を生む最高のツール-

(1)成果 → ツール → 成果
 SLIPは正式名称をSubroutine Package for Image Processing といい、プログラム言語FORTRANで書かれた(後にCバージョンも加わった)サブルーチンの集まりである。ずっと後には3次元画像用のSLIPー3Dも加えた。その機能は画像処理のプロセスを実行するのに必要な各ステップから選ばれたが、その中の主要な部分は筆者の研究室の論文にあるアルゴリズム関連の成果から取り上げられたものが中心である。というより、筆者から見ればそれはアルゴリズムと処理過程の中間ステップのコレクションである。しかし、そのコレクションが以後の研究にどれだけ貢献したかは計り知れない。名古屋大学大型計算機センターのライブラリとしても外部へもいくつも提供したから、関係の全国の研究者にも少なからず使って頂けた。
(2)使えるツールのコレクション
 これは、厳密には研究テーマとは言い難い。研究室で次々に開発され、試されたアルゴリズムの集積である。その意味では、正しく『コレクション』である。しかし、プログラミング上では互換性を最も重視した。もちろん、コレクションにはコレクターの意図が色濃く反映する。そう言うことからすればやっぱり筆者の研究上の関心がその性格を決めていることも確かである。例えば、一時的な有効性には拘らず、一見役には立たないかも知れない色々のバリエーションを系統的に集めるように留意した。いわば、昆虫採集と同じである。しかし、ここを徹底して収集した点が結局は後になって一番役に立った点である。特に、テーマ5であげた距離変換関連は充実していると思う。一方、余所で開発された手法は代表的と見えるものは、ある程度は入れてはあったが、それだけでは特色のある研究は生み出せなかったと思う。その反面、それだけ取り出しても何の意味もないような、そしてその積もりになればユーザがその都度作っても難しくないようなものも沢山入れておいた。これらもまた、実際には研究全体の効率化には非常に貢献したと思う。こういうことは短期間しか関わらなかった学生諸氏には実感としてわかっては頂けなかったのではないかと思う。
 SLIPの開発に当たって留意したもう一つの事柄はドキュメンテーションの徹底である。実際、プログラムマニュアルは筆者自身が一番たくさん書いたと思っている。ワープロなどは無かった時代であるから、すべて手書きであり、コピーや編集機能もなかったから作業は大変であった。これまた、2,3年しか関係しなかった学生諸君にはその意義は分からなかったかも知れない。ただ、私にとっては、このときの経験がアルゴリズム空間の探索というイメージを作り、前述の画像処理エキスパートシステムや知識発見と言うテーマにつながったと思う。後に学生の1人、塩見佳久君がこのマニュアルに挿絵を描いてくれた。この図柄と機能のマッチングが絶妙で大いに評価を得た。
(3)検索とコンサルテーション
 蓄積されたアルゴリズムの山に対して、検索とかコンサルテーションのようなアルゴリズムデータベースの活用のためのツールに関する鈴木秀智君らの研究も生み出した。これも、今見るとまだまだ未完で、やれることはいくらもあったように思う。その一方で、『検索』と言う入力のレベルを超えるアイデアが何か無いと物足りない、と言う感じもあった。その一つの方向が、先のIMPRESSであったとも言える。

13. きらめく小テーマ群

(1)テーマの概要
 これまでに述べてきたものほどではないが、ある時期に2,3年(典型的には、卒業研究でやった人が修士課程を出るまでの間くらい)やってみたが、その後色々の事情で止まっているものの中で、意外に面白い性格のものがいくつもある。ここでは思いつくままにそのいくつかをあげる。研究の内容を説明するのが目的ではないので、一つ一つはそれぞれの特徴的な性格を簡単に説明するにとどまる。しかし、期間の長さの割には、前項までに取り上げた大テーマに劣らないおもしろさも成果の意義もある。筆者の扱ったテーマの空間において点光源として輝くとでも言えようか。
(1)輪郭追跡アルゴリズム
 アルゴリズムとしては基本的であるが、欧米の先行研究が多くてそれほど力を入れては取り組まなかった。画素の追跡、および、辺の追跡、という既存の考え方に対して、頂点の追跡という一点に鋭い特色がある。
(2)ホルモン分泌顆粒の計測とテクスチャ解析
 当時(1975年頃)の大型2次元濃淡画像(700×1000画素くらい)の、複雑なテクスチャ画像の処理。局所領域のヒストグラム特徴および距離変換とスケルトンによる図形分離と言う、今なら周知の基本手法を始めてうまく使う。発表時の聞き手の衝撃を受けた状態が印象に残る。
(3)逐次型特徴選択手順
 特徴選択に、ここでも総当たり法を用い、準最適な手法の能力を実験的に検証した。総当たり法の威力、特徴数の増加と共に誤り確率が増加することもあり得る、と言うことの実証などが印象的である。
(4)地形図の解析
 ディジタル幾何学的手法を活用して、地形的特徴(尾根、谷、頂点、など)を自動抽出した。ディジタルデータさえ入手できれば、もっと大テーマとしてやりたかった、やるに値した課題を含むテーマである。今はディジタル地図データが容易に手に入るから、材料にはこと欠かないが…。もっとも医用画像とは離れている。筆者が自分でプログラムを作って実験もした多分最後の問題である。発表当時(1975年頃)、国内では反応はほとんど無かったが、アメリカでは関心が高かった。丁度巡航ミサイルを開発中でその方への応用の可能性が大いにあったとは、後で知った。
(5)X線像のスケッチ処理
 『スケッチは第2の言語』と言った人がいる。X線像のスケッチの自動生成とそれからの検索や特徴計測への応用。画像処理としてかなり本質的な問題を含むから、これも未完に近い。IMPRESSとか発見科学とか画像データベースとか色々のところで少しずつ使ったがこれがその最初の取り組みがこれである。筆者の頭の中では表に出るよりずっと重要な位置を占める。
(6)ミイラの3次元構成
 きっかけはNHKから持ち込まれ、東大のミイラのCT像を3次元構成(今でいえば仮想化されたミイラか?)を出して、世の中では大変興味を持って頂いた。後できいてみると、3次元医用画像の可視化でアクティブな研究グループ(ハンブルグ大とかメイヨー・クリニックとか)もやっている。オリジナリティでは特別のことはなかったが、外科手術シミュレーションシステムが思わぬところで役に立った。ただ、CT撮影という点ではボストン美術館の方が早かったため『世界初』とはいかなかった。最近も国内で縄文時代のミイラのCTと3次元再構成の例があったが、提案者はこのときの我々の結果を覚えていて、それがきっかけとなったそうである[神谷00]。
(7)3D再構成アルゴリズム 筆者のテーマの中では唯一イメージングの方法に関する研究である。CTと同じであるが、回転軸自身が動いてしまうという新しい問題であった。これも前記の斉藤君の最後の仕事の一方である。幸い、これは論文に投稿してあった。
(8)共焦点顕微鏡画像と集積回路検査への応用
 集積回路の表面を、3次元凹凸を含めて画像化する。結像系の理論的考察もいろいろあり、今まで見えなかったミクロンオーダ−の表面形状が見えると言う可視化本来の成果もあって非常の面白いが、論文発表がされていない。

14. 余談 その1 身近になったSF -事実は小説より奇なり。VRは?-

 『事実は小説より奇なり』と言われる。では、近年流行したバーチャル・リアリティはどうか。仮想現実という訳もあるようにそれは小説(バーチャル)でありながら、視覚や触覚を通して体験できる。上にあげた成果の中にも、結果的にはSF(空想科学小説)を思い出させるものもあれば、同類が小説に既に現れているものもある。その場合でも、SFであるから、多少は『科学的?』説明が与えられている。筆者もSFとミステリーは趣味の一部で、それなりに読んでいるが、そう言えば、筆者の意図とは関係なく、筆者が扱ってきた、あるいはその周辺にあった事柄が結果的にはSFに扱われているものが意外にある。以下にあげたのはその一部である。まだ読んでおられない方の楽しみを損なわないように、どこが筆者が意図した部分かをごく簡単にあげるにとどめる。

1 I.アシモフ:我はロボット
  (ロボット三原則(これは周知であろう))
2 手塚治虫:マンガ 38度線上の怪物、1953
  (縮小人間の体内潜入と結核菌との戦い。この作者としてはマイナーな作品であろうが、作者が医学を学んだことの反映か。ミクロの決死圏に先行すること15年近い。)
3 I.アシモフ:ミクロの決死圏、1966,同Pt.2 1987
  (本文参照。 縮小人間の体内潜入。Pt。1は映画化のノベライゼーション。)
4 A.クラーク:2001年宇宙の旅、1968
  (人工知能 HAL これも周知。HALは1998年にはできていたはず?。)
5 I.アシモフ:裸の太陽、1957
  (『実物を見る』、と『映像を見る』の違いが、女性の姿を見ることを取り上げて論じられている)
6 M.クライトン:ライジング・サン、1993
  (映像からの人物(顔)認識、CGによる映像生成(実画像との合成)。アメリカにはなくて日本ではできていることになっている。)
7 M.クライトン:ディスクロージャー
  (VR空間での情報検索の『仮想』体験。)
8 J.ソウヤー:ターミナル。エクスペリメント、 1995
  (魂がCT像に撮れる。魂なら、特にCTでなくても良さそうな気がするが・・・)
9 A.クラークら:過ぎ去りし日の光、上、下、2000?
  (すべての人が、他人のすべてを見える、としたら?? )
10.柾悟郎:ヴィーナス・シティ、早川文庫JA、早川書房、1995
  (データベース検索と身体インタフェースが面白い。高速データ回線をデータに乗って走り回る実体験のイメージが秀逸。)

15. 余談 その2 A.I.とその実現

 ・1948:マンガ 手塚治:38度線上の怪物、1953
 ・1966:映画:ミクロの決死圏 (Fantastic Voyage)U.S.A.
 ・1968:映画:2001年宇宙の旅(Space Odyssey 2001)、U.S.A.
 ・1997.1.12:A.I.マシンHAL 完成
 ・1997.5:コンピュータ・チェス Deep Blue 世界チャンピオン カスパロフを破る
 ・2003.4.7:ロボット 鉄腕アトム誕生

16. むすび

 本文は、筆者が過去40年にわたって携わってきた研究テーマの主なもの、十数個について、印象を記したものである。印象であるから、系統的に何かを解説したり、主張しようとする意図は無い。また、研究発表とは異なり、文献などを厳密に挙げることもしない。その代わり、それぞれのテーマを取り上げた(あるいは取り上げなかった)動機、テーマの開始時点および途中で考えたこと、期待したこと、そして結果的に得たこと、などを形式面にはとらわれずに思いつくままに記した。
 書き終わってみると、意外に沢山のテーマを手がけたものだ、と言う印象である。しかし、その選択の基準はやはり第一に「面白そう」と言うことである。ただし、流行を追ったことは一度もない。実際にはその時々のスタッフと装置を含めた「環境」で勝負できるか、と言うことは当然考えた。そうは言っても、必ずできると言うことはあり得ない。あとから見ると、むしろ難しい方の選択をしていたようでもあるが、それは『面白そう』が優先したためであろうか。その他、『よそではやっていないオリジナリティがあること』、『問題解決の本筋であろうこと』なども常に意識にはあった。そして、一度始めたら簡単には止めなかった。従って、恐らくどのテーマも実質的には10年くらいはやっていたことになったと思う。こうして色々試してみた結果が本文のような次第である。

謝辞 終わりに、それぞれのテーマを提起された方、ご指導頂いた方、共につきあって頂いた研究室の方々には心より感謝します。実に沢山の方にお世話になりました。具体的に名前を挙げた方も上げなかった方も、文章の流れからたまたまそうなったまでで、特にこれで評価する気は毛頭ありません。また、筆者の誤解や記憶の誤りも少なからずあると思いますので、それについてはお詫びします。気がつかれましたらご指摘下さい。

参考文献

([鳥脇03a〜03g]は本文をまとめる元になったものである。)
[神谷00]神谷敏郎;あるミイラの履歴書、中公新書、中央公論社、2000
[河口94]河口洋一郎:CoacerVater、NTT出版、1994.10
[小柳津70]鳥脇純一郎、小柳津育郎,福村晃夫: 雑音を伴う連続濃度図形から曲線を識別する一方法,情報処理,11, 7, 388-399. July 1970
[斉藤01]齋藤豊文、番正聡志、鳥脇純一郎:ユークリッド距離に基づくスケルトンを用いた3次元細線化手法の改善ーひげの発生を制御できる一手法ー、電子情報通信学会論文誌DーII、J84-DII、8, pp.1628-1635 (2001.8) 
[斉藤01] 斉藤豊文助教授を偲ぶ、名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻、鳥脇研究室、2001.9
[高木03]高木隆司代表編集:かたちの事典、丸善、2003
[舘野02]舘野之男:画像と医学、中公新書、中央公論社、2002
[鳥脇94]鳥脇純一郎、舘野之男、飯沼武編著:医用X線像のコンピュータ診断、シュプリンガー・フェアラーク東京、1994.12
[鳥脇97]鳥脇純一郎:仮想化された人体とナビゲーション診断、BME(日本エム・イー学会誌)、11、8, pp.24-35 (1997)
[鳥脇02]鳥脇純一郎:仮想化内視鏡システムの発想と実現、 CADM News Letter, No.34, pp.4-12 、コンピュータ支援画像診断学会 (2002.1)
[鳥脇03a]鳥脇純一郎:画像処理と診断支援の40年、名古屋大学最終講義、2003.3.6 [鳥脇03b]鳥脇純一郎:情報工学からみたデジタル医用画像の計算機処理、日本超音波医学会第76回学術集会、特別講演、2003.5.9
[鳥脇03c]鳥脇純一郎、長谷川純一:画像とコンピュータ、放送大学面接講義、2003.5.10-11
[鳥脇03d]鳥脇純一郎: 医用画像の認識における研究課題の展開、画像電子学会第202回研究会、2003.5.31
[鳥脇03e]鳥脇純一郎: 研究テーマを研究する ー その個性と魅力、名古屋大学名報会総会講演、2003.6.21
[鳥脇03f]鳥脇純一郎:基盤技術からみたCADの歴史と将来、日本医用画像工学会第22回大会、特別講演、2003.7.25
[鳥脇03g]鳥脇純一郎先生退官記念誌 40年間の足跡−画像のパターン認識と医用画像の自動診断をめざして、鳥脇純一郎先生退官記念事業会実行委員会、2003.7
[横井81]S.Yokoi, J.Toriwaki and T.Fukumura : On generalized distance transformation of digitized pictures, IEEE Trnas. PAMI, PAMI- 3, 4, pp.424-443, Jul.1981 [Rosefeld71]A.Rosenfeld : Connectivity in digital pictures, J. Assoc. Comput. Mach., 18, pp.146-160 (1971)
[WPM]鹿野清宏,鳥脇純一郎、福村晃夫:“濃淡図形を線図形に変換する一方法・ Wave Propagation Methodについて・”電子通信学会論文誌,55-D, 10, pp.65-72, Oct.1972
(*本稿は名報会総会(2003.6.21)において筆者が行った同タイトルの講演に基づいて大幅に加筆改訂したものである。)


本図集は,H15年名報会総会(2003.6.21)において筆者が行った講演の概要と用いたスライド画像を収録したものです.ネット上での閲覧は自由ですが,それ以外の使い方はしないで下さい.

図に関する誤り,内容に関するご意見などがありましたら,すべて鳥脇純一郎< toriwaki@nuie.nagoya-u.ac.jp >までご連絡ください.

『著作権』
収録されている図の著作権は,

H15名報会総会講演図面


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